· 

「恐竜博2023」大阪会場で展示中の新種の角竜「フルカトケラトプス・エルキダンス」の命名決定!

 

大阪市立自然史博物館(大阪・長居公園)で 9 月 24 日(日)まで開催されている特別展「恐竜博 2023」(主催:大阪市立自然史博物館、NHK 大阪放送局、NHK エンタープライズ近畿、朝日新聞社)は、鎧竜史上最高の完全度と謳われるズール・クルリヴァスタトルの実物化石を中心に、身を守るためにトゲやプレートを進化させた装盾類(そうじゅんるい)(剣竜と鎧竜の総称)の進化について解説しながら、恐竜たちの「攻・守」という観点から恐竜の進化を読み解きなおす展覧会です。

 

そして今回、これまで「ケラトプス科の未記載種」として展示してた角竜が新属新種として記載され、命名されました。その名は「フルカトケラトプス・エルキダンス」。大阪会場へ特別協力を行っている国立科学博物館(館長:篠田 謙一)の石川 弘樹連携大学院生(地学研究部/東京大学 理学系研究科 地球惑星科学専攻)、對比地 孝亘研究主幹(地学研究部 生命進化史研究グループ)、真鍋 真副館長が発表しました。研究結果は、Cretaceous Research 誌で 8 月 11 日に公開されました。

 

 

特別展「恐竜博 2023」大阪会場(大阪市立自然史博物館)では、この新属新種「フルカトケラトプス・エルキダンス」の実物化石を観ることができます!

 

フルカトケラトプス の復元図
フルカトケラトプス の復元図
フルカトケラトプス の実物化石 国立科学博物館蔵(撮影:アフロ)
フルカトケラトプス の実物化石 国立科学博物館蔵(撮影:アフロ)

 

【研究のポイント】

(国立科学博物館の研究で以下の4点が判明しました)

 

  • 本標本は、角竜(*1)の新種であること。
  • 本標本は、推定年齢 3 歳未満の若い個体(亜成体)であること。
  • 後期白亜紀のジュディスリバー層(*2)の恐竜の多様性を解明するうえで重要な化石であること。
  • 角竜の骨の形態を詳細に調べられる重要な標本であること。

 

【研究の背景】

 

角竜は、トリケラトプスなどに代表される植物食恐竜のなかまです。特に白亜紀の終わり頃には特徴的な角やフリルを発達させた多種多様な角竜が出現し、白亜紀末の小惑星衝突が起こるまで主要な大型植物食動物として北米や東アジアで繁栄していました。

 

本標本が発見された「ジュディスリバー層」(アメリカ・モンタナ州)は 19 世紀に角竜の化石が世界で初めて報告された地層として知られていますが、完全度の高い化石の報告は意外に少ない地層です。国立科学博物館は、2012 年にこのジュディスリバー層で見つかった例外的に完全度が高く保存状態の良い標本(標本番号:NSM PV 24660)を 2018 年に入手し、これまで研究を進めてきました。今回、本標本には角や吻部に既知の種とは異なる固有の特徴が認められ、このたび新種として記載を行いました。

 

 

【本標本の基本データ】

 

標本番号:NSM PV 24660

分類:鳥盤類 新鳥盤類 周飾頭類 角竜類 ケラトプス科

学名:Furcatoceratops elucidans (フルカトケラトプス・エルキダンス)

属名の意味:フォーク状の角のある顔(目の上の角が二股のフォークのように伸びていることから)

種小名の意味:光を当てるもの(研究例の乏しい骨の形態をも明らかにする標本であることから)

産地:アメリカ・モンタナ州 ウィニフレッド近郊

地層:ジュディスリバー層 コールリッジ部層

時代:後期白亜紀 カンパニアン(今から約 7560 万年前)

全長:約 3.5 メートル(亜成体)

 

図 1:本標本の骨格図。白色の部位の骨化石が確認されている。

 

【本標本の研究で判明したこと・重要性】

 

・本標本は新種であること

 大型の角竜であるケラトプス科は、フリルが短く、縁に突起が発達していることが多い系統(セントロサウルス亜科)と、フリルが長く、縁の突起はあまり長くないことが多い系統(カスモサウルス亜科)に分けられます。本標本は、セントロサウルス亜科の中で、フリルの縁の装飾が控えめながら、フリルの側面のリッジが発達しているナストケラトプスの仲間であることがわかりました。ジュディスリバー層や近くの地層からはこれまでにも断片的なナストケラトプスの仲間の化石は報告されてきましたが、種を分類するカギになるような固有の特徴は認められていませんでした。本標本では、目の上の角芯が大きく前方に伸び、やや内側に曲がること、鼻骨の一部が前上顎骨に外側から被さるようになっているなどの特徴から、新種であると考えられます(図 2)。

 

図 2:フルカトケラトプスと近縁種頭骨の比較。フルカトケラトプスでは、上眼窩角芯(目の上の角を支える骨)が根元から大きく前方へ伸び、やや内側に曲がっている。また、鼻骨と前上顎骨の関節部(青い三角で示した部位)の形態も異なる(左右は一部反転。スケール不同)。白色の骨化石が確認されています。

 

 

・本標本は、若い個体(亜成体)であること

 

多くの脊椎動物は成長につれて、骨の癒合が進んだり、骨の表面組織が変化したりする傾向があります。本標本は、近縁種の成体の 7 割程度の体格と考えられ、骨の癒合も進んでいません。また、頭部や四肢の骨には幼体型と成体型の中間的な表面組織が見られます。従って、未成熟の若い個体(亜成体)だと考えられます。恐竜の骨の内部には、成長速度の季節変動によって年輪のような構造(成長停止線)が認められる場合があります。本標本では上腕骨や脛骨などで共通して 2 本の成長停止線が認められたことから、2~3 歳で死んだ個体だと考えられます(次ページ図 3)。

さらにフルカトケラトプスの成長過程の特徴を本標本で知ることができます。たとえば、全身のほとんどの部位で骨の癒合が進ん

でいないにもかかわらず、角の付け根などでは癒合が進んでいます。フルカトケラトプスでは目の上の角が長く伸びていますが、角の

付け根の骨の癒合が早いことで発達した角を支えることができた可能性があります。

 

図 3:本標本の左上腕骨の断面と成長停止線(▲で示した線が成長停止線)

 

 

 

・ジュディスリバー層の恐竜の多様性を解明するうえで重要な化石であること

 

鳥類以外の全ての恐竜は、今から約 6600 万年前の白亜紀末に絶滅しました。この大量絶滅を理解するうえで、白亜紀最末期の約 1000 万年間の恐竜の多様性の変化が近年注目を集めています。ジュディスリバー層はこのような時代に堆積した地層の 1 つで、その古生物学的な重要性にもかかわらず、断片的な化石が多いことから恐竜の多様性に関する理解が遅れてきました。しかし、近年は精力的な研究によってジュディスリバー層からもさまざまな化石が発見・報告され、恐竜の多様性に関する研究が進んできています。本標本は、ジュディスリバー層から産出した化石の中でも例外的に完全度が高く、保存状態も良い角竜で、今後、ジュディスリバー層から見つかっている多数の断片的な化石を分類するための比較標本として重要です。

 

・角竜の骨の形態を詳細に調べられる重要な標本であること

 

本標本は極めて保存状態が良く、骨の各部位の癒合が進んでいないことから、1 つ 1 つの骨の特徴を詳細に観察することができる重要な化石です。特に、角竜では成長とともに頭部の骨の癒合が進んでしまうため、個々の骨の形態は観察しにくくなってしまいます。本標本は保存状態が良いうえに多くの部位が見つかっており、これまで他の角竜でもあまり研究されていなかった骨についても詳しく調べることができます。たとえば、上顎のクチバシを支える角竜特有の骨「吻骨」や、フリルの縁の小さな骨の特徴まで詳しく調べることができるため、今後の研究が期待されます(図 4)。

 

図 4:本標本の頭部。頭骨を構成する多数の骨が良好な保存状態で見つかっている。

図 5:フルカトケラトプスの復元図

 

 

 

【今後の研究計画】

 

本標本は、新種であるだけでなく、ジュディスリバー層から見つかった角竜としては最高の完全度・保存状態の化石で、角竜の 1つ 1つの骨の特徴に関する知見を提供する重要な標本です。ジュディスリバー層産の角竜に関する分類学的・解剖学的な理解を進める可能性を持っています。今後は、国内外の恐竜研究者と協力し、近縁種との比較をさらに進めるとともに、ジュディスリバー層の恐竜の多様性とその変遷、µCT スキャンなども活用して、クチバシや顎、三半規管などの内部構造や神経血管系などの特徴に関して研究を進めていく予定です。本標本の発掘地でも追加の調査を予定しており、同じ場所から発見された角竜以外の化石についても、現在研究を進めています。

 

【発表論文】

表題:Furcatoceratops elucidans, a new centrosaurine (Ornithischia: Ceratopsidae) from the upper 

Campanian Judith River Formation, Montana, USA.

著者:石川 弘樹、對比地 孝亘、真鍋 真

掲載誌:Cretaceous Research

※本研究は、標本調査の一部に関して東京大学・理学系研究科大学院学生国際派遣プログラム(2018 年度、2019 年度)の支援を受けています。

 

【用語解説】

*1 角竜

ジュラ紀から白亜紀の北半球で繁栄した植物食恐竜で、上顎の先端にクチバシを支える「吻骨」という特殊な骨をもつ。白亜紀

の終わり頃には、角やフリルを発達させたトリケラトプスなどの大型種が現れ、北米や東アジアで繁栄した。

*2 ジュディスリバー層

アメリカ・モンタナ州中部に分布する後期白亜紀に堆積した地層。分類が難しい断片的な化石の産出が多いが、近年は精力的

な研究により角竜のメルクリケラトプス(2014 年)やスピクリペウス(2016 年)、鎧竜ズール(2017 年)、肉食恐竜ダスプレ

トサウルス・ウィルソニ(2022 年)といった多数の新種の恐竜が記載され、注目を集めている。

 

 

展覧会名:特別展「恐竜博 2023」 | THE DINOSAUR EXPO2023

会  期:2023 年 7 月 7 日(金)~9 月 24 日(日)

休 館 日:月曜日(祝休日の場合はその翌日)

開館時間:午前 9 時 30 分~午後 5 時*入場は午後 4 時 30 分まで

会  場:大阪市立自然史博物館 ネイチャーホール(花と緑と自然の情報センター2 階)

主  催:大阪市立自然史博物館、 NHK 大阪放送局、 NHK エンタープライズ近畿、朝日新聞社

協  賛:INPEX、Gakken、DNP 大日本印刷

特別協力:国立科学博物館

学術協力:ロイヤルオンタリオ博物館

後        援:大阪府教育委員会、大阪市教育委員会、堺市教育委員会

 

[入場料](税込)

   大人(65 歳以上含む)1,800円(1,600円) 高校・大学生 1,500円(1,300円) 小・中学生 700円(500円)

※未就学児は無料

※( )内は団体料金

※障がい者手帳等をお持ちの方とその介護者 1 名は無料(要証明) ※高大生は要学生証 ※団体料金は 20 名以上

※主なチケット販売場所は大阪市立自然史博物館ミュージアムショップ、アソビー!、展覧会オンラインチケット、セブンチケット【セブンコード:101-185】、ローソンチケット【Lコード:56893】,イープラス、チケットぴあ【Pコード994₋272】、CNプレイガイド、楽天チケットほか

※上記特別展入場料で、大阪市立自然史博物館常設展も入場可能(当日限り)

※チケットのキャンセル・券種変更・払戻し・再発行は致しません。再入場はできません。

※館内の混雑状況により、入場整理券配布などの入場規制を行う場合がございます。

※本展チケットの転売を禁止しております。不正に購入されたチケットに関するトラブルについては一切責任を負いませんので、ご注意ください。

また、不正に購入されたチケットであることが判明した場合は入場をお断りします。

 

展覧会公式サイト:https://dino2023.exhibit.jp/

公式 X(旧 Twitter):dinoexpo2023

公式 Instagram:dinoexpo2023

 

お問い合わせ:大阪市総合コールセンター(なにわコール)

TEL:06-4301-7285 FAX:06-6373-3302

受付時間:午前 8 時~午後 9 時(年中無休)

 

 

 

[アクセス]

〒546-0034 大阪市東住吉区長居公園 1-23

●Osaka Metro 御堂筋線「長居」3 号出口・東へ約 800m

●JR 阪和線「長居」東出口・東へ約1km

●大阪シティバス「長居東」停留所

●車でお越しの場合は、長居公園内の南駐車場、地下駐車場をご利用ください(有料)

 

※会期等は変更になる場合がございます

※展示物は東京会場と一部異なります。予めご了承ください

※展示する標本は会期中、諸事情により変更になる場合があります。変更になる場合は、公式サイト及び公式 X(旧 Twitter)でお知らせいたします

※チケット各種、購入方法の詳細は、展覧会公式サイトをご確認ください